水曜日, 12月 13, 2006

脳神経外科速報に掲載されました

脳神経外科速報 2006年12月号に井上の投稿が掲載されました.
当院で行っている無剃毛・無除毛手術をシャント手術に応用したものです.

要約を載せますので,興味のある方はメディカ出版の脳神経外科速報2006年12月号を購入して下さい.

脳神経外科速報Vo.16 no12 2006.12 .P1123-1128

シャント手術における無剃毛・無除毛について
(まったく髪の毛を切らないシャント手術)
井上道夫 高橋脳神経外科病院

Ⅰ.はじめに
1999年にCDC(アメリカ疾病予防局)により,髪の毛を残すことで,むしろ手術後の感染を減らせることが示され た.しかし水頭症の髄液短絡術(脳室-腹腔シャント:V-Pシャント,硬膜下腔-腹腔シャント:S-Pシャント)については,髪の毛は不潔であるという考えから,相変わらず髪の毛を刈っている施設が多い.当院では,2005年4月のシャント手術から,手術前に髪の毛をまったく切らないで手術をするようにした.当院での手術法と感染率について報告する.

Ⅱ.対象・方法
術前にバリカンで手術部位の毛髪を刈った21例を 除毛群(2003年1月~2005年3月),全く毛髪を切らないで手術をした12例を無除毛群(2005年4月~2006年6月)とした.各群の術後60 日までの感染率を比較した.感染群と非感染群との間で術後感染のリスクファクターをχ2 testを用い検定を行った.

当院における無除毛手術の手技
病棟における前処置:手術直前にヒビスクラブ®(4%グルコン酸クロルヘキシジン)で頭髪を洗浄する.
手術場での皮膚切開直前の処置:頭髪をヒビスコール®(0.5%ヒビテンアルコール)でぬらし,覆布テープ,ステイプラーでシャントを通す予定の線に沿って頭髪を分けて固定する.手術予定部位をイソジン液®で消毒する.
術後の処置:手術創は24~48時間程度ガーゼで覆い,その後,洗髪して開放する.

Ⅲ.結果
除毛群で21件のうち1件(0.48%)で,無除毛群では12 件のうち1件(0.83%)で術後感染を認めた.起炎菌はいずれもMRSAであっ た.感染例は共に喫煙者であった.

Ⅳ.考察
無除毛群で感染した1例 は,見当識障害の患者自身が創部のステイプラーを素手ではずしてしまい,癒合不全から起こった感染であった.患者の状況によっては創部の保護を考えなければならないという教訓を得た.

今回の我々の結果から,髪の毛を切らないでシャント手術を行っても感染率が上がらないことが示された.習慣的に行われ,患者にとって負担となる「手術前に髪の毛を切る」という行為が,今後は少なくなっていくものと期待された.

手術前の写真です.
髪の毛は切らずに分けるだけです.








手術直後の写真です.
ガーゼの下の髪の毛もほとんど残っています.

月曜日, 12月 04, 2006

「初心」 by笹森医師

2006年12月の,笹森医師による朝礼スピーチです. 「初心」について語っていただきました.


女性の医師でなぜ脳外科を選んだのかを聞かれることがよくあり、医師となった頃を振り返ってみました。当時、脳外科教授だった端 和夫先生の臨床に対する取組みや人物的にも惹かれたものがあり、この教授の下で勉強をしたいと思ったのがその理由の一つです。また、診察・画像診断・病気の発見・手術などによる治療とその後のフォローなど、長い期間にわたって患者さんと関わりをもつ診療科であることも自分を脳外科に導いた理由のひとつです。
 医師となってからの十五年を振り返って見ますと、出産や育児など私生活の面でもいろいろありましたが、理事長先生はじめ,多くのスタッフに支えられてやってこれたという実感があります。このことは幸せなことで貴重なことだと思うので、これからも皆さんと協力し合って頑張ってゆきたいと思います。
「脳外科教室年報」というものがあり、1993年に自分や井上先生が入局した時に寄稿したものがあります。(下記写真を参照して下さい・・・時の変化を強烈に感じさせられます.)
思い起こせば、処置などが上手くいかなくて、周囲のスタッフや患者さんがどう感じているのだろうかと不安になり、それでも一つ一つの手術や処置を覚えてきました。「初心忘るべからず」という言葉がありますが、仕事をしてゆく上で多くの人に支えられて自分が力を発揮しているということを改めて考え、自分が育ててもらっていることを感じながら初心と照らし合わせてみることも良いのではないでしょうか。
 新人の皆さんも、分らない事やできないことが多くて大変だと思いますが、最初は皆出来ないので、出来る人に教えてもらって頑張りましょう。十二月に入り、寒さも増してきましたが、皆それぞれに今年を無事に終えられますように。

1993年当時の写真とコラムです.
それぞれの写真をクリックすると大きくなります.

火曜日, 11月 07, 2006

特別講演「脳卒中を予防するために」

10月28日,当院で松村院長による特別講演が行われました.多数の参加者で会場は熱気に包まれておりました.ご来場いただいた方にはお礼を申し上げます.
以下に,特別講演の概要を掲載します.


脳卒中を予防するために
20061028
高橋脳神経外科病院 特別講演
院長 松村茂樹

脳卒中をよく理解する

「動脈硬化」

ほとんどの脳卒中の原因

動脈の壁が厚くなったり固くなったりして弾力性や柔軟性を失った状態.
一種の老化現象
個人差がある・・飲酒,食事,運動不足,飲酒,ストレスが影響する.


脳卒中の種類

血管の閉塞脳梗塞:脳血栓と脳塞栓

脳血栓:動脈硬化で徐々に血管の壁が厚くなり,血管が詰まる.

脳塞栓:心臓などから流れてきた血の塊(血栓)が詰まる.

血管が破綻:脳出血とくも膜下出血
脳出血:脳内の細い血管が動脈硬化で破れて脳を壊して出血する.
くも膜下出血:脳血管にできた動脈瘤(風船状のコブ)が破裂して脳の隙間に出血が回り込む.


脳卒中の症状

突然発症する.
軽い症状から徐々に進行して重症になる.
一過性の前ぶれ後に大きな発作を起こす.

片側の麻痺がでた
スリッパが脱げる
半身がしびれる

箸が使いづらい
うまく飲み込めない
ボタンがうまくできない

物忘れしやすい
計算ができない

頭が痛い
頭が重い
めまいがする
まっすぐに歩けない

意識が障害される
気を失う
反応が鈍い
やる気が起きない

話ができない
言葉がうまく出てこない
ろれつが回らない
言葉が理解できない

片目が見えない
二重にダブって見える
視界の半分が見えない

脳卒中の原因(危険因子)を取り除く発症の危険率を低下させる

自分で管理できない危険因子

加齢:脳卒中の2/365才以上に発症
性別:男性は動脈硬化の進行が早く,脳卒中の発症率が高い.
遺伝:くも膜下出血の多い家系がある.


自分で管理できる危険因子

高血圧:脳卒中の危険性が健康人の5
高脂血症:血液中のコレステロールや中性脂肪の数値が高いと動脈硬化を進行させる.
糖尿病:動脈硬化を進行させる.脳卒中の危険性が2.5
心臓病(不整脈):特に心房細動は危険.脳梗塞(脳塞栓症)の危険性が5.5
肥満:脳梗塞の危険性が2倍以上.



危険因子の管理のために
定期検査を受ける
薬の服用を守る

絶対に禁煙:たばこは百害あって一利なし,脳卒中の危険性が2倍以上.
節酒: 過度の飲酒は脳卒中の危険性を高める.日本酒11合まで.ビール大瓶1本まで.ワインはグラス2杯まで.
食生活や嗜好品の見直し:バランスの良い食事・塩分を控える・食べ過ぎない・植物性脂肪にする.
水分摂取:1日最低1.5L,意識的に水分を摂る.
かぜは大敵
適度な運動
早期発見が大切:専門病院で定期検査を受ける.
「普段と違う!?」「何か変だ!?」脳卒中が疑われたらすぐに受診する:

火曜日, 10月 24, 2006

傷の閉鎖療法(湿潤療法)~デュオアクティブETの使用法~

デュオアクティブET
デュオアクティブET
当院では、すり傷・切り傷を消毒しないで、さらに乾かさないように覆うことで治癒を促す「湿潤療法」をしています。
傷を覆うのに「デュオアクティブET」を使います。
この新しい治療法は、これまでの「消毒をしてガーゼをあてる」方法に比べて痛みが少なく、傷跡が残りにくい、傷にやさしい方法です。

デュオアクティブETは、ハイドロコロイドでできており、キズから出てくる過剰な液を吸収します。
使用法は簡単なので、ご自分たちで取り替えることができます。

 デュオアクティブETの使い方
手順1. キズの大きさ・形に合わせてハサミで切ります。
手順2. 水道水などでキズをきれいにします。
(消毒剤はキズを痛めるので使わないで下さい!)
手順3. 乾かしたキズの上にデュオアクティブETを直接貼ります。
しばらくするとキズからでてくる液を吸収して、デュオアクティブETが白くふやけてきます。この液は、傷を治そうとして出てくる液で、傷が化膿したわけではありません。

手順1
手順1
手順2
手順2
手順3
手順3
キズの上が白くふくれてきます。
 デュオアクティブETを替えるタイミング
端から漏れているので
取り替えます。
デュオアクティブETが白くふやけてきても、すぐに貼り替える必要はありません。
しかし、白くふやけたところが広がって端から漏れてきたら、はがして水・お湯などで傷をきれいにして、新しいものを貼って下さい。
デュオアクティブETのふやけたところが傷にくっつくことはありません。
傷が治るまで
治癒とともに、傷から出てくる液は少なくなります。
端から漏れてこなくても4~5日したら、とり替えて皮膚を洗って清潔にしましょう。
貼ったまま入浴・洗髪が可能です。又は、はがして入浴し、その後に新しいものに替えても結構です。
傷から出る液がほとんど無くなり、デュオアクティブETが白くふやけなくなったら治療は終了です。
はがしてきれいに洗って下さい。
傷が治るまで通常1~2週間くらいかかります。

デュオアクティブと同様の市販品に「キズパワーパッド」(ジョンソン アンド ジョンソン)があります。薬局などで売っています。
2歳以下のお子さんは、皮膚がかぶれることがあるので注意して下さい。
キズの周囲が赤くなる・腫れるなど、感染・化膿が疑われる場合はご相談下さい。
傷が治ったところは日焼けしやすいので、当分の間、太陽の光に直接当てないようにしてください。


「傷の湿潤療法」関連ホームページ
『新しい創傷治療(「消毒とガーゼ」の撲滅を目指して)』夏井 睦(まこと)先生
URL : http://www.wound-treatment.jp/

2005年 手術症例

2005年の手術症例数は昨年と比べ全体的に増加しました。

手術症例として脳動脈瘤や脳内血腫、水頭症、硬膜下血腫の手術が特に多く見られました

■2004年,2005年の年間手術件数について
手 術 名 2004年 2005年
・脳腫瘍摘出術
・未破裂脳動脈瘤クリッピング術 13 22
・破裂脳動脈瘤クリッピング術 13 21
・脳内血腫除去術
12
・定位的脳内血腫除去術
・浅側頭動脈中大脳動脈吻合術
11
・内頚動脈内膜剥離術
・水頭症手術(シャント手術など) 13 18
・慢性硬膜下血腫穿頭術 19 24
・急性硬膜下血腫除去術
・脳動脈瘤内コイル塞栓術
・局所血栓溶解術
・その他 18
 合計 102 156



髪の毛を全く切らない手術(無剃毛・無除毛)


感染率は変わりなく、むしろ少ないくらい。そのような報告は増えている。

以前の脳神経外科の手術は、髪の毛を刈ったり、またはツルツルに剃ったりしていました。しかし最近は、髪を剃ることはかえって細菌感染の原因になるといわれ、なるべく髪の毛を残すようにして手術をするようになってきました。

このような流れの中で、当院では、2004年5月から、髪の毛はそのまま切らないで手術をしています。除毛クリームも使いません。夜間の緊急手術や、ドレナージという管を入れたままにする手術でも、髪の毛はいっさい切りません。また、2005年4月から水頭症(脳に髄液という水が貯まる病気)の治療に行う脳室ー腹腔シャント術(頭からおなかに、髄液を流す管を埋め込む手術)でも髪の毛を切らないで手術するようにしています。

以前は、髪の毛が長いままだと手術の際に邪魔になったり、細菌感染の原因になると考えられていました。しかし、髪の毛を切らないで手術しても特に感染が増えることはありませんでした。また、皮膚を切るところだけ前もって髪の毛を分けると邪魔にはなりません。髪の毛を分ける処置にかかる時間は数分程度です。

手術をした日はガーゼを当てていますが、翌日から洗髪して手術創は何もつけずにそのままにします。カサブタがついている場合は、ワセリンを塗っておくときれいになります。手術後に消毒薬を使うことはありません。ドレナージという管を手術後に入れておく場合も同様です。

無剃毛・無除毛手術の利点

髪の毛をいっさい切らないので、退院するときには手術をしたことが外見上ほとんどわからず、社会復帰に支障を来しません。特に女性の患者様には、美容上の負担がほとんど無くなり、退院後の外出・面会が問題なく出来るメリットがあると考えられます。

無剃毛・無除毛手術の手順

1. 手術する前に病棟でヒビスクラブ(4%グルコン酸クロルヘキシジン)で頭髪を洗浄する。
(緊急手術では省略することもある)
2. 皮膚を切る直前に手術場で頭髪をヒビスコールR(0.5%ヒビテンアルコール)でぬらし、櫛で皮膚切開線に沿って整髪。覆布テープ、ステイプラーで頭髪を固定、イソジン液で消毒。
3.

創は2448時間程度ガーゼで覆う。その後、洗髪して開放。

1.髪の毛を固定して消毒。これで髪は術野にほとんど出てきません。
2.男性の患者さん。切開線に沿って髪の毛を分ける。

3.手術が終わってガーゼで覆う。


4.手術翌日。このまま髪の毛を洗って、開放します。

5.こちらは別の女性の患者さん。縫ったステイプラーを抜いたところ
退院するときには、見た目に
手術したとはわかりません

除毛手術と無除毛手術の感染率の比較

除毛 手術件数
期間(連続20ヶ月間) 開頭 穿頭 そのうち感染
2002年9月~12月 18 10 28 0
2003年1月~12月 55 29 84 2
2004年1月~4月 16 8 24 0
89 47 136 2(1.47%)

無剃毛・無除毛 手術件数
期間(連続20ヶ月間) 開頭 穿頭 そのうち感染
2004年5月から12月 33 22 55 1
2005年1月から12月 79 45 124 0
112 67 179 1(0.56%)

月曜日, 10月 23, 2006

慢性硬膜下血腫とは

軽微な頭部外傷後に「慢性硬膜下血腫」が生じることがあります。 頭蓋骨のすぐ下に「硬膜(こうまく)」という厚い膜があり、さらにその下に脳を包む「くも膜(くも膜)」という膜があります。この硬膜とくも膜の間に、比較的ゆっくりと時間をかけて血のたまり(血腫)ができてくるものを、「慢性硬膜下血腫」といいます。
 
きっかけとなる外傷は「転んで頭を打った」「家具や棚などに頭をぶつけた」など、比較的軽症なものが多く、ぶつけた直後には特に異常は見られないことがほとんどです。 受傷後数週間~数ヶ月たって、頭痛や歩行障害、また周囲からみてなんとなく様子がおかしい(ボケたようだ)などで、病院に来られて、検査をして始めてわかることが多いです。 治療方法は手術でたまった血腫を取り除くことです。頭蓋骨に約1cmの小さい穴を開けて、ここから細いチューブを入れて血を洗い流す手術を行います。 局所麻酔で行える手術で、所要時間は約一時間です。
慢性硬膜下血腫は、症状が出現してから早期に発見し治療(手術)を行えば、後遺症を残すことなく治癒する疾患です。 しかし、発見が著しく遅れたり、症状が出てから長く放置されたりすると、手術しても後遺症が残ったり、回復に時間がかかり入院期間が長くなってしまうこともあります。
 
慢性硬膜下血腫を早期に発見して適切な時期に治療を受けるため、頭を打撲したらその2-4週間後に、体に異常を感じていなくても脳神経外科を受診して、CTやMRI検査を受けることをおすすめします。

木曜日, 10月 19, 2006

2004年の手術件数について


2004年の手術症例数は全体では前年と同じ数でした。
当院は急性期の脳外科単科病院のため、血管障害(脳卒中)と外傷の手術が多い傾向にあります。

■手術件数(年間) 102例(血管内手術件数 7例)
病 名 /件 数 /備 考
脳腫瘍 8  
脳動脈瘤 26 破裂:13例、未破裂:13例
脳出血 10 開頭:3例、ステレオ:7例)
脳梗塞 9 中大脳動脈-浅側頭動脈吻合:7例、CEA:2例※CEA=頚部内頸動脈内膜剥離術
頭部外傷 23 急性硬膜下血腫:4例、慢性硬膜下血腫:19例
水頭症 13 VP シャント:11例、SP シャント:1例、脳室ドレナージ:1例
感染症 2  
脊髄 1 前方固定術:1例
血管内手術 7 血栓溶解術:3例、PTA/STENT:3例、コイル塞栓術:1例
その他 3    合計 102