火曜日, 7月 03, 2007

新しい脳梗塞の治療~tPAのお話

新しい脳梗塞の治療~tPAのお話
高橋脳神経外科病院 笹森由美子

血栓溶解療法ってどんな治療でしょう?
脳梗塞は日本で年間8万人以上の命を奪う恐ろしい病気です.脳に血液を送る大きな血管がつまってしまうと,血流を元に戻せずに脳組織が機能を失って,後遺症を残すことがほとんどでありました.
根本的な治療がこれまでなかった脳梗塞に対して,2005年10月から,血管につまった血の塊を溶かす薬「組織プラスミノゲン活性化因子(=tPA,ティーピーエー)」が健康保険で使用できるようになりました.
このtPAを用いた血栓溶解療法は,米国での実績をもとに,日本国内でより安全に治療できるように検証されて実施が可能となりました.米国での臨床試験では,脳梗塞の発症から3時間以内にこの治療を受けた患者さんたちは,治療を受けなかった場合に比べて症状を残さず回復した人の割合が5割多かったという結果が出ています.
脳の血管につまった血栓を溶かす治療は,従来はカテーテルという細い管を閉塞した動脈に直接挿入し,ここから薬を注入して行われる方法がありましたが,手技的な難しさや治療に時間がかかることなどから,行えないケースも多くありました.
一昨年から可能となったtPA血栓溶解療法は,薬を手足などの静脈から点滴で投与して行われるので,手技が大変簡便です.当院でも既にこの治療を行い,後遺症なく回復された患者さんたちがおられます.

いつでも・どんな患者さんにも,治療できるのでしょうか?
一見,大変魅力的なtPAによる血栓溶解療法ですが,すべての脳梗塞の患者さんに有効なものではなく,様々な要因(症状出現からの時間や血液検査値,既往症など)で施行できない場合があります.
特に重要な点は,発症から3時間以内に治療が開始されることで,症状出現から長時間経過してしまうとこの治療は行えません.治療可能な時間を逃さないためには,症状出現後なるべく早く来院することが必要であります.また,この治療のもっとも重篤な合併症である脳出血は致命的になることもあり,注意が必要です.

高橋脳神経外科病院での治療は?
tPAによる血栓溶解療法が適切に行われよい治療結果を得るためには,脳卒中治療の知識と経験が豊富な専門医が治療にあたることが必要です.当院では365日24時間,直ちに画像診断や血液検査を行い, 脳卒中専門医が治療を行う体制を整えています.
手足の脱力や口のもつれなどの異変を感じたらただちに受診していただくことと,当院ではスタッフ一同が常に地域の皆様のために救急治療を行う体制にあることを,どうぞ忘れずにいて下さい.