土曜日, 3月 24, 2007

失語症 その2 「一般的な失語症タイプ」

一般的な失語症タイプ
言語聴覚士 藪 貴代美
ブローカ失語
1) 自発語は非流暢で、プロソディー(リズム・抑揚・音色)の障害がある.発音に努力を要し、一気にしゃべれる長さが短い.失構音、保続も認められる.電文体(助詞の削除)発話になることがある.話す速度は遅く、自発話が少ない.
2) 復唱は障害され、長い言葉ほどより困難である.
3) 言語理解は保たれるため、日常会話の理解は良いことが多いが、複雑な命令の理解は困難を示すことが多い.また、文法構造にのみ頼るような文の理解は悪い.
4) 文字の音読も障害され、文字了解も低下する.音読では漢字の読みの方が仮名よりも良好なことが多い.
5) 書字は読解よりも障害が強い.仮名より漢字の想起の方がよい.仮名は錯書が多い.
【病変部位】Broca野(下前頭回の後部、弁蓋部及び三角部)に位置するとされてきたが、Broca野のみの破壊ではBroca失語は起こらず、中心前回・後回の下部、頭頂葉弁蓋部、島などの皮質および皮質灰白質の広範囲な障害が関与しているとされている.



失構音(発語失行)
1) 発語面にのみ限定した障害を表し、正しい音を作るためにタイミングよく口腔器官を動かすことができない.重度では発声からできないことがあるが、軽度ではスムーズではないが話すことができる.同じ音でもきれいに発音できるときと歪んだり、他の音に置換することがあり、構音障害(常に同じように歪む)とは区別される.
2) 言語理解、文字言語の理解・書字は正常である.
【病変部位】中心回下部、島とその周辺および皮質下でBroca失語とほぼ同じだが、中心回下部が重要視されている.


超皮質性運動失語
1) 復唱は長い文章でも可能だが、自発語は乏しく発語は非流暢である.しかし、失構音の要素は少ない.構成的に話を組み立てて話すことは困難だが、枠組みが決まっていている場合の発話はある程度可能.
2) 理解は良好.
【病変部位】Broca野の前方から上方の領域で、上前頭回(時に補足運動野)、中前頭回、下前頭回のいずれか、もしくは全体が重要視されている.



全失語
1) 発話がみられないか、ほとんど残語のみで復唱や音読でもなかなか言葉が出てこない.
2) 言葉だけでは意味理解ができない.
【病変部位】言語領野のほとんど、又は深部白質の広範な病変による.


Wernicke失語
1) 自発語は流暢で、発話量も多く、文の長さも正常.しかし、語性錯語や音韻性錯語、保続も多く、全体として意味不明の発話になる.障害が重度の場合はジャーゴンになることもある.復唱や音読でも自発話と同様の障害がみられる.
2) 意味理解の障害、語音認知の障害がある.
3) 文字言語の障害も強く、錯書がみられる.
【病変部位】上側頭回後1/3(Wernicke野)、中側頭回後部を中心に、時に頭頂葉(MTG & angular gyrus)に及ぶ.Anna Bassoらの前頭葉病変で流暢性の保たれた報告以来、前頭葉病変の報告がみられる.


超皮質性感覚失語
1) 基本的症状はWernicke失語と似ているが、最も異なる点は復唱能力であり、文レベルでの復唱能力が保たれる.しかし、その言葉の意味は理解出来ない.
2) 時に意味理解を伴わない簡単な音読ができることがある.
【病変部位】いろいろな病巣パターンがあるが、ほとんどは中・下側頭回より頭頂葉後部に及ぶ.

伝導失語
1) 意味理解は良好.
2) 自発語は原則的に流暢だが、音韻性錯語が頻出し、誤りに気づいて自己修正を繰り返すので、一見非流暢に感じることがある.
3) 復唱障害が特徴的だが、症例によって発語能力に著しい解離が見られる.自発話、音読、呼称でも音韻性錯語があり、音節数の多い目標語ほど呼称が難しくなる.書字にも錯書が見られる.
【病変部位】障害部位は上側頭回後方、縁上回が多い.シルビウス溝周辺でもみられる.


健忘失語(失名詞失語)
1) 発語は流暢だが、喚語が著明に障害されるため、発語の内容は空虚でとなる. 必要な語が喚起できないため、迂遠な言い回しも目立つ.しかし、音韻性錯語は認めない.
3) 理解障害は基本的にはない.
【病変部位】超皮質性感覚失語とほぼ同じだが、他の失語型よりの回復期に見られる場合は各失語型に準じる.