月曜日, 12月 31, 2007

tPAによる血栓溶解療法の現状

先日札幌市内で行われた動脈硬化フォーラムで当院医師 笹森からtPA療法について講演したので,その内容について簡単に紹介させて頂きます.
今回はその前編です.
tPAによる血栓溶解療法の現状(前編)
高橋脳神経外科病院 笹森 由美子
tPAとは?rt PA=recombinant tissue-type plasminogen activator
一般名:alteplase(アルテプラーゼ)
商品名:「グルトパ」「アクチバシン」
2005年10月 保険適応となる. 「アルテプラーゼ静注療法適正治療指針」作成.                  (日本脳卒中学会)認可されてから2007年10月までの推定使用症例は8300例にのぼります.          
脳卒中治療ガイドライン 2004にtPAについて記載され,その使用を推奨されています.
推奨
tPAの静脈内投与は,経験を積んだ専門医師が適切な設備を有する施設で,適応基準を十分に満たす場合においては,脳梗塞急性期の治療法として有効性が期待される.                   (グレードA)
アルテプラーゼ静注療法に関するエビデンス発症3時間以内の虚血性脳血管障害に対するアルテプラーゼ静注療法により,3ヵ月後の転帰良好例は有意に増加する.                             (レベルⅠa)
tPA静注療法に関するエビデンスは国内外で以下のものがあります.
①米国の大規模臨床試験1995年 NIND study発症3時間以内の脳梗塞患者にtPA 0.9mg/kgを静脈内投与…3ヵ月後の転帰良好例 39%(プラセボ群 26%)頭蓋内出血 6.4%
②日本の臨床試験 2002年4月~2003年9月 J-ACT(Japan Alteplase clinical Trial)発症3時間以内の脳梗塞患者にtPA 0.6mg/kgを静脈内投与…3ヵ月後の転帰良好例 37%頭蓋内出血 5.8%
日本脳卒中医療向上・社会保険委員会はtPA静注療法の施設基準を下記のように提案しています.
・CTまたはMRI検査が24時間可能
・集中治療のため十分な人員と設備を有する
・脳外科的処置が迅速に行える体制が整備されている
・実施担当医が日本脳卒中学会の承認する実施講習会を受講している
tPA静注療法の適応は主に以下のものがあります.
・発症3時間以内に投与開始可能
・軽症例でない (軽度の麻痺,構音障害,失調,感覚障害のみ など)
・CTで早期虚血性変化が中大脳動脈領域の1/3未満
CTではEarly CT signsを読むことが重要です.
Early CT signs
・皮髄境界の不鮮明 
・脳溝の消失・低吸収域の出現  
・髄液腔の圧排
tPA療法を迅速・確実に行うためにその禁忌を頭に入れておき,的確に判断する必要があります.
禁忌には以下のようなものがあります.
既往歴   
頭蓋内出血既往
3ヶ月以内の脳梗塞(TIA除く)
3ヶ月以内の重症な頭部脊髄の外傷あるいは手術
21日以内の消化管あるいは尿路出血
14日以内の大手術あるいは頭部以外の重篤な外傷
治療薬の過敏症
臨床所見  
痙攣,くも膜下出血
出血の合併(頭蓋内,消化管,尿路,後腹膜出血,喀血)
頭蓋内腫瘍,脳動脈瘤,脳動静脈奇形,モヤモヤ病
収縮期圧 185mmHg以上 拡張期圧 110mmHg以上 
血液所見  
ワーファリン服用中でPT-INR 1.7以上      
ヘパリン投与中でAPTTが前値の1.5倍以上または正常以上      
重篤な肝障害 急性膵炎
画像所見  
CTで広汎な早期虚血性変化,CT/MRI上の中心構造偏位  
慎重投与というのもあります.治療を行う場合は医師が慎重に判断する必要があります.
慎重投与は以下のものがあります.
既往歴   
10日以内の生検・外傷      
10日以内の分娩・早流産      
3ヶ月以上経過した脳梗塞      
蛋白製剤のアレルギー
臨床所見  
75才以上      
NIHSSスコア 23以上,JCS 100以上      
消化管潰瘍,憩室炎,大腸炎      
活動性結核      
DM性出血性網膜症,出血性眼症      
血栓溶解薬・抗血栓薬投与中      
月経期間中      
重篤な腎障害      
コントロール不良なDM
感染性心内膜炎
治療の流れ・・・・等ついては後編に続きます.

土曜日, 12月 08, 2007

嚥下障害の検査 ( VF ) について

当院リハビリスタッフ ST(言語聴覚士)の志田より嚥下障害の検査・VFについて説明してもらいました.


「 嚥下障害の検査 ( VF ) について 」 ST 志田大輔
嚥下障害の症状として一般的に知られているのが、食事中の “むせ” です。しかし、むせの無い誤嚥が非常に多いのも事実です ( 不顕性誤嚥 ) 。嚥下造影検査(Videofluorgraptic examination:VF検査)は患者さんに造影検査食を嚥下してもらい、検査食の流れと貯留状態、嚥下関与器官の動きをX線透視画像として観察を行い、障害部位の判定し貯留・喉頭進入・誤嚥などの病態評価を行なう方法で嚥下障害を評価する方法の中でも重要な検査法の1つです。
VF の目的・特徴は、診断的 VF治療的 VF の 2つに大きく分けられます。診断的 VF とは、誤嚥の有無・むせの有無や程度、原因を評価します。治療的 VF は、誤嚥や咽頭残留 ( のどに食べ物が飲み込んだ後にも残ること ) がある場合、姿勢 ( ※当院では検査は90°位のみしか行なえないが、VFの結果等から造影後に食事時の姿勢調整は可能です)や食物形態や一口量を変え、様々な嚥下法や手技を組み合せて、造影中に効果を検討します。異常の検査で得られた情報を基に、その後のリハビリテーションや実際の食事内容や姿勢・介助法などに生かしていくのです。


【VFで診れる嚥下の流れ】


本検査の問題点

VF検査は嚥下機能検査法の中でも信頼性の高い方法ですが、X線被曝の観点から長時間の撮影や繰り返しの評価を行うことは困難です。
本検査を行う為に、検査者は解剖学的構造と嚥下障害の機序に関する知識のほか、代償方法や嚥下機能賦活法の知識と排出のための技術が必要です。
また患者様にとっては検査室という特殊な環境や体位の不自由さ、あるいは緊張のため普段とは異なる嚥下を行う患者様もいます。
そのためVF法で得られた評価結果が患者様の嚥下機能のすべてであると過信せずに、他の嚥下機能検査法を組み合わせて総合的に評価を行う事が大切になります。

土曜日, 11月 24, 2007

あんな頭痛,こんな頭痛・後編

2007年10月27日 院内講演会(高橋友の会)で井上が頭痛についての講演をさせて頂きました.主に片頭痛と緊張型頭痛について自分の体験を元にして話しています.
今回は後編を掲載します.緊張型頭痛,その他の頭痛,脳卒中などです.


プレゼンテーションは以下のリンクから見てみて下さい.
http://docs.google.com/Present?docid=dhtdq57v_275chkq8n


緊張型頭痛
いわゆる「肩こりからくる頭痛」連日続く.頭が重い,肩・首が張る→後頭部を中心とした頭痛.頭全体が締められている.何かが乗っかった感じ.

自分の体験: 自転車乗って,同じ姿勢で肩・首の筋肉が固まった.
肩をリラックスさせる.自分でマッサージ.








その他の原因
睡眠不足・疲れから繰り返しなる.誘因を思いつくことが多い.うつ傾向首を回したときに、めまいがすることがある首や肩の筋肉を圧迫すると痛い反面、心地よさを感じる.
治療
内服治療ストレッチ,マッサージ←重要!!腹筋・背筋を鍛える.ストレッチ.風呂・・・・肩,首もぬるめで温める.枕の高さ.痛みが取れても,重い感じは続くことが多い.そのうちに疲れがたまって,また痛くなる.

片頭痛と緊張型頭痛の本音
片頭痛と緊張型頭痛の混在がある.もしかしたら,似たようなものかもしれない.
はっきりした原因は,不明.

怖いのはくも膜下出血,脳出血,髄膜炎など

くも膜下出血のCT














くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤(右中大脳動脈) ・・脳ドックで発見された

上のCTとは別の症例です.









上記動脈瘤の拡大・立体化写真












高齢者,よく転ぶ人,お酒の好きな人
慢性硬膜下血腫になるおそれがある.



慢性硬膜下血腫のCT
緊張型頭痛と似ていることがある.





頭以外から来る頭痛
鼻から副鼻腔炎
目から緑内障

危険な頭痛→病院受診を考慮
今までの頭痛と根本的に違う,進展する.
初めての または 最悪の頭痛
急激発症の頭痛(5分以内に最強に達する.)
5才未満,50才囲上の初めての頭痛
悪化する頭痛
最近の頭部外傷
意識障害・意識消失を伴う頭痛

脳外科で片頭痛・緊張型頭痛と言われた事があって,同じような症状なら,あまり心配いらない.数年以内にMRAで異常なければ,もっと心配いらない.

金曜日, 11月 09, 2007

あんな頭痛,こんな頭痛 前編

2007年10月27日 院内講演会(高橋友の会)で井上が頭痛についての講演をさせて頂きました.主に片頭痛と緊張型頭痛について自分の体験を元にして話しています.
今回は前編を掲載します.おもに片頭痛までの話です.

プレゼンテーションは以下のリンクから見てみて下さい.




あんな頭痛,こんな頭痛~経験者が語る,頭痛の見分け方と対処法~
高橋脳神経外科病院 医師井上 道夫
2007.10.27 高橋友の会

頭痛の特殊性
頭痛はつらい.他の臓器は痛ければ何かしらの問題がある.頭痛は脳が悪いわけでもないのに痛くなる.痛いと何もできなくなる.激痛でなければ同情されづらい.検査をしても厳密な意味で原因はわからない頭痛が多い

頭痛の種類・・・こんなにあります
第1部:一次性頭痛  (頭痛もちの頭痛)
1.片頭痛(ずきんずきんタイプの頭痛)
2.緊張型頭痛(頭重タイプの頭痛)
3.群発頭痛(片目の激痛発作)
4.その他(穿刺様頭痛,咳漱性(がいそうせい)頭痛,労作性頭痛,性行為に伴う一次性頭痛,睡眠時頭痛,一次性雷鳴頭痛)
第2部:二次性頭痛
外科的二次性頭痛 
5.頭部外傷による頭痛
6.血管障害による頭痛(くも膜下出血などによる頭痛)
7.脳腫瘍など頭蓋内疾患による頭痛
内科的二次性頭痛 
8.物質またはその離脱による頭痛(二日酔いの頭痛など。薬物乱用頭痛もここに分類されます)
9.感染症による頭痛(かぜの頭痛など)
10.ホメオスターシスの障害による頭痛(高血圧による頭痛など)
その他の二次性頭痛
11.眼・耳・鼻、口腔疾患による頭痛
12.精神疾患による頭痛
第3部:神経痛と顔面痛
13. 神経痛と顔面痛
14. どれにも該当しない頭痛


片頭痛
片頭痛・・・と書く.(偏頭痛ではない)だけど片側が痛いわけではない.頭の内外の血管が広がることが原因?自分は数年に一回.
特徴前兆がある!目の前にギザギザ?逆光を見た感じああーくるなぁーって感じ.痛み方:がんがん,ずきずき.吐き気もする.痛む時間:連日は続かない.長くて半日くらい.痛くて何も出来なくなるけど,脳を心配する必要はない.



私の体験した閃輝暗点のイメージ図.
治療:注射,薬実は,寝たら治る.(眠くなる)
誘因は不明(緊張が無くなったら?)・・・ある日突然やってくる.

木曜日, 10月 04, 2007

検査説明書

「当院で行われる検査の説明書」

脳神経外科の主な検査を説明します。患者さまの病状や経過によって、必要な検査は様々です。



●CT検査
 X線を体の周囲から照射し、コンピュータを使って断面(輪切り)を画像化する装置です。CTでは、体内のX線透過の差を、細かく白黒の濃淡として表わします。検査中は5分程度、台の上で仰向けになっていただきます。検査では、わずかですがX線により被ばくします。身体にはほとんど影響しません。







●MRI検査 磁気共鳴診断装置(Magnetic Resonance Imaging)のことです。強い磁石と電波によって脳・脊髄をさまざまな角度で輪切りにして画像にする診断機器です。MRIは、CTに比べると時間が長くかかりますが、より詳細な情報を得ることができます。放射線による「被ばく」がありませんが、大きな音がします。ペースメーカーをつけた方は検査を出来ません。 またMRI装置は内部が狭く、閉所恐怖症の方は検査がつらい場合があります。検査中、具合が悪くなったり、不安になったらいつでも申し出て下さい。


●MRA検査 MRI装置を使用した血管撮影(MR Angiography)のことで、造影剤や薬を使わずに脳や頚の血管を写す検査です。脳動脈瘤や血管の細い部分などを発見できます。検査の受け方はMRIと同じで、仰向けに横になって頂いて検査をします。通常はMRAの撮影部位を3回に分けて行います。病状、症状に応じて主治医が必要な撮影部位を判断します。


●脳波 脳波検査は、脳の電気的活動を頭皮上から増幅して得られる波形で記録する全く痛みの無い検査です。てんかんや脳血管障害・頭部外傷・脳炎・脳腫瘍・頭痛に伴う脳波異常の診断や治療効果の評価などに使われます。




●SPECT(スペクト)検査 SPECTは、Single Photon Emission CTを略したもので、日本語では単一光子放射型CTといいます。 脳の血流の状態を画像として評価することができるます。検査の前に、放射線を出す元素(ラジオアイソトープ)を静脈内に注射します。 投与した元素が、脳にどのような濃度で分布しているのかを画像化します。血流の多いところは赤~黄色で、少ないところは緑~青色で表示されます。撮影の時間は、約 20分~30分間です。この間、ベッド上で静かに仰向けになっていただくことになります。




●心電図 心電図とは、心臓が収縮・拡張する時に心臓の筋肉から発生する非常に小さな電流を体の表面で記録したものです。脳卒中と関連する心臓の病気(不整脈・心肥大・心筋梗塞・狭心症など)が見つけられます。精密検査のためは、24時間心電図(ホルター心電図)を行うことがあります。




●頚動脈エコー 頚動脈エコー検査は、首の血管の縦切り・横切りの画像を撮ることができ、血管の壁の厚みや、血管の表面、血管の中を流れる血流の状態を検査することができます。これで血管の狭窄、血栓の状態、動脈硬化の程度を判断できます。検査はベットに横になり頚部に専用のプローブをあてて行います。時間は15分ぐらいです。痛みはありません。
●心臓エコー検査(心エコー) 胸から心臓に超音波をあてることにより、心臓の壁の厚さと動き、全身へ血液を送るポンプとしての機能、心臓の弁の動きと逆流の程度などを、心臓が動いている状態を検査することが出来ます。

日曜日, 9月 16, 2007

救急車と初診患者数が増加傾向です.














当院では開院以来、24時間、365日の救急体制で患者さまに対応してきましたが、最近は救急車の搬入数が、増加しています。今後も救急医療で地域社会に貢献できますように、医療体制を強化して参ります。また、新しく当院を受診される患者さまの人数も増加傾向です。


金曜日, 8月 31, 2007

SugitaClip TitaniumⅡ使用 道内で初!

当院では破裂動脈瘤,未破裂動脈瘤に対して,主にクリップを行うことが多いです.

本年春から,Sugita(スギタ)の新しいチタンクリップ SugitaClip TitaniumⅡを採用して使い始めましたが,当院が道内で初使用例とのことです.

このクリップ,Yasagilよりよく開いて,閉鎖圧も強いのが売りです.実際に持ってみると,もっともっといい感じです.まず,専用の鉗子が小さくて軽い!Clip形状は思ったよりもずっとシャープで薄い感じ.手術で実際にこのクリップを持って,大きく開いて動脈瘤にアプライしてみると,今までよりも安心してかけられる感じがします.これはもう,使ってみないとわからないので,是非お薦めしたいです.

火曜日, 7月 03, 2007

新しい脳梗塞の治療~tPAのお話

新しい脳梗塞の治療~tPAのお話
高橋脳神経外科病院 笹森由美子

血栓溶解療法ってどんな治療でしょう?
脳梗塞は日本で年間8万人以上の命を奪う恐ろしい病気です.脳に血液を送る大きな血管がつまってしまうと,血流を元に戻せずに脳組織が機能を失って,後遺症を残すことがほとんどでありました.
根本的な治療がこれまでなかった脳梗塞に対して,2005年10月から,血管につまった血の塊を溶かす薬「組織プラスミノゲン活性化因子(=tPA,ティーピーエー)」が健康保険で使用できるようになりました.
このtPAを用いた血栓溶解療法は,米国での実績をもとに,日本国内でより安全に治療できるように検証されて実施が可能となりました.米国での臨床試験では,脳梗塞の発症から3時間以内にこの治療を受けた患者さんたちは,治療を受けなかった場合に比べて症状を残さず回復した人の割合が5割多かったという結果が出ています.
脳の血管につまった血栓を溶かす治療は,従来はカテーテルという細い管を閉塞した動脈に直接挿入し,ここから薬を注入して行われる方法がありましたが,手技的な難しさや治療に時間がかかることなどから,行えないケースも多くありました.
一昨年から可能となったtPA血栓溶解療法は,薬を手足などの静脈から点滴で投与して行われるので,手技が大変簡便です.当院でも既にこの治療を行い,後遺症なく回復された患者さんたちがおられます.

いつでも・どんな患者さんにも,治療できるのでしょうか?
一見,大変魅力的なtPAによる血栓溶解療法ですが,すべての脳梗塞の患者さんに有効なものではなく,様々な要因(症状出現からの時間や血液検査値,既往症など)で施行できない場合があります.
特に重要な点は,発症から3時間以内に治療が開始されることで,症状出現から長時間経過してしまうとこの治療は行えません.治療可能な時間を逃さないためには,症状出現後なるべく早く来院することが必要であります.また,この治療のもっとも重篤な合併症である脳出血は致命的になることもあり,注意が必要です.

高橋脳神経外科病院での治療は?
tPAによる血栓溶解療法が適切に行われよい治療結果を得るためには,脳卒中治療の知識と経験が豊富な専門医が治療にあたることが必要です.当院では365日24時間,直ちに画像診断や血液検査を行い, 脳卒中専門医が治療を行う体制を整えています.
手足の脱力や口のもつれなどの異変を感じたらただちに受診していただくことと,当院ではスタッフ一同が常に地域の皆様のために救急治療を行う体制にあることを,どうぞ忘れずにいて下さい.


金曜日, 6月 01, 2007

無剃毛シャントが北海道医療新聞に掲載


当院で行っている無剃毛・無除毛によるシャント術(脳神経外科速報2006年12月号p1123-1128)について北海道医療新聞19年5月25日付で掲載されました.

明日からにでもやればできるのに,なかなか普及しない無除毛手術ですが,このような新聞記事ですこしでもしてみようかと思う施設が増えたらと思います.

土曜日, 3月 24, 2007

失語症 その2 「一般的な失語症タイプ」

一般的な失語症タイプ
言語聴覚士 藪 貴代美
ブローカ失語
1) 自発語は非流暢で、プロソディー(リズム・抑揚・音色)の障害がある.発音に努力を要し、一気にしゃべれる長さが短い.失構音、保続も認められる.電文体(助詞の削除)発話になることがある.話す速度は遅く、自発話が少ない.
2) 復唱は障害され、長い言葉ほどより困難である.
3) 言語理解は保たれるため、日常会話の理解は良いことが多いが、複雑な命令の理解は困難を示すことが多い.また、文法構造にのみ頼るような文の理解は悪い.
4) 文字の音読も障害され、文字了解も低下する.音読では漢字の読みの方が仮名よりも良好なことが多い.
5) 書字は読解よりも障害が強い.仮名より漢字の想起の方がよい.仮名は錯書が多い.
【病変部位】Broca野(下前頭回の後部、弁蓋部及び三角部)に位置するとされてきたが、Broca野のみの破壊ではBroca失語は起こらず、中心前回・後回の下部、頭頂葉弁蓋部、島などの皮質および皮質灰白質の広範囲な障害が関与しているとされている.



失構音(発語失行)
1) 発語面にのみ限定した障害を表し、正しい音を作るためにタイミングよく口腔器官を動かすことができない.重度では発声からできないことがあるが、軽度ではスムーズではないが話すことができる.同じ音でもきれいに発音できるときと歪んだり、他の音に置換することがあり、構音障害(常に同じように歪む)とは区別される.
2) 言語理解、文字言語の理解・書字は正常である.
【病変部位】中心回下部、島とその周辺および皮質下でBroca失語とほぼ同じだが、中心回下部が重要視されている.


超皮質性運動失語
1) 復唱は長い文章でも可能だが、自発語は乏しく発語は非流暢である.しかし、失構音の要素は少ない.構成的に話を組み立てて話すことは困難だが、枠組みが決まっていている場合の発話はある程度可能.
2) 理解は良好.
【病変部位】Broca野の前方から上方の領域で、上前頭回(時に補足運動野)、中前頭回、下前頭回のいずれか、もしくは全体が重要視されている.



全失語
1) 発話がみられないか、ほとんど残語のみで復唱や音読でもなかなか言葉が出てこない.
2) 言葉だけでは意味理解ができない.
【病変部位】言語領野のほとんど、又は深部白質の広範な病変による.


Wernicke失語
1) 自発語は流暢で、発話量も多く、文の長さも正常.しかし、語性錯語や音韻性錯語、保続も多く、全体として意味不明の発話になる.障害が重度の場合はジャーゴンになることもある.復唱や音読でも自発話と同様の障害がみられる.
2) 意味理解の障害、語音認知の障害がある.
3) 文字言語の障害も強く、錯書がみられる.
【病変部位】上側頭回後1/3(Wernicke野)、中側頭回後部を中心に、時に頭頂葉(MTG & angular gyrus)に及ぶ.Anna Bassoらの前頭葉病変で流暢性の保たれた報告以来、前頭葉病変の報告がみられる.


超皮質性感覚失語
1) 基本的症状はWernicke失語と似ているが、最も異なる点は復唱能力であり、文レベルでの復唱能力が保たれる.しかし、その言葉の意味は理解出来ない.
2) 時に意味理解を伴わない簡単な音読ができることがある.
【病変部位】いろいろな病巣パターンがあるが、ほとんどは中・下側頭回より頭頂葉後部に及ぶ.

伝導失語
1) 意味理解は良好.
2) 自発語は原則的に流暢だが、音韻性錯語が頻出し、誤りに気づいて自己修正を繰り返すので、一見非流暢に感じることがある.
3) 復唱障害が特徴的だが、症例によって発語能力に著しい解離が見られる.自発話、音読、呼称でも音韻性錯語があり、音節数の多い目標語ほど呼称が難しくなる.書字にも錯書が見られる.
【病変部位】障害部位は上側頭回後方、縁上回が多い.シルビウス溝周辺でもみられる.


健忘失語(失名詞失語)
1) 発語は流暢だが、喚語が著明に障害されるため、発語の内容は空虚でとなる. 必要な語が喚起できないため、迂遠な言い回しも目立つ.しかし、音韻性錯語は認めない.
3) 理解障害は基本的にはない.
【病変部位】超皮質性感覚失語とほぼ同じだが、他の失語型よりの回復期に見られる場合は各失語型に準じる.

土曜日, 2月 10, 2007

失語症 その1

当院リハビリ部長 籔言語聴覚士(ST)により失語症 をわかりやすく解説してもらいました.
数回にわたってお届けします.今回は①失語症のタイプ分類,②基本用語の解説です.

①失語症のタイプ分類

ST

いくつかの分類方法が提唱されてきたが、大きくみると以下の2つの立場がある.

1.症候と脳の解剖構造の相関を重視する古典的な立場:Boston Group

→症候群についてはある程度病巣との対応関係を考えることができるが、1つの症状は1つの病巣に対応させることはできない.例えばウエルニッケ失語と左側頭葉後方上部病変はある程度相関させられるが、理解障害はいろいろな病巣で起こりうる.

2.心理学あるいは言語学的側面を重視する立場

鑑別診断のポイント

・ 発話が流暢か非流暢か

・ 聴覚的理解ができるかどうか

・ 復唱能力が保たれているかどうか



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②基本的な用語

理解障害:語音認知の障害(音を聞き取れない)、意味理解の障害(言語音として聞き取れてもその意味が理解できない)、聴覚的把持力の障害(一度に覚えられるものが少ない)がある.

喚語困難:言葉が思い出せない状態をいうが、語頭音のヒントがあると出てくることもある.

プロソディー:リズム・抑揚・音色のこと.障害されると不自然なイントネーションの日本語になる.

錯語:音韻性錯語(音を誤るが元の語が推察できる程度の誤り)、語性錯語(他の単語に誤るもので、同じカテゴリー内の語に誤る意味性のものと、まったく無関連の語に誤るものがある).書字で文字の誤りがある場合は、錯書と言われる.

新造語:もとの言葉がわからないほど音が異なったもの.音自体は日本語の音で、ひずみなどはみられない.

ジャーゴン:意味をなさない文レベルの発話.発話が語性錯語中心のものは意味性ジャーゴン、新造語中心の場合は音韻性ジャーゴン、同じ音や語の繰り返し(ex. ととと)は再帰性発話・残語とされる.

迂言(うげん):肝心の単語がでないで、それを説明するように話すもの.

失文法:電文体(助詞が抜けるもの)や活用語の産出が困難になるもの.

錯文法:助詞の使用や活用、文の構造が不適切なもの

保続:一度言ったことばが何度も繰り返しでてくること.

火曜日, 1月 23, 2007

2006年度手術件数

手 術 名 件数ケンスウ
・脳腫瘍摘出術 4
・未破裂脳動脈瘤クリッピング術 13
・破裂脳動脈瘤クリッピング術 17
・脳内血腫除去術 7
・定位的脳内血腫除去術 4
・浅側頭動脈中大脳動脈吻合術 8
・内頚動脈内膜剥離術 3
・水頭症手術(シャント手術など) 8
・慢性硬膜下血腫穿頭術 36
・急性硬膜下血腫除去術 1
・脳動脈瘤内コイル塞栓術 0
・頸動脈ステント留置術 2
・局所血栓溶解術 1
・その他 24
 合計 128

土曜日, 1月 06, 2007

X線を発見したウイルヘルム・レントゲン



診療部と放射線科で月に1回の勉強会を開いております.
いつもはMRIなど最新の検査について勉強することが多いのですが,今回は温故知新ということで基本に返ってウイルヘルム・レントゲンについて復習しました.



1845年にドイツで生まれたウィルヘルム・レントゲンは現在医療現場で早期診断に欠く事の出来ないX線を発見し、世界最初のノーベル物理学賞を受賞しました.
レントゲンは,アイザック・ニュートン,ジェームス・マックスウェルと同じ時代に大学で勉強しました.当時,電磁気学と力学で物理学を極めたかと思われた時代ですが,その後,原子物理学が始まり,レントゲンがそのきっかけとなりました.

ウィルヘルム・レントゲンはガラス管の中に電極を封入し、電圧をかけながらガラス管の中を徐々に真空にする真空放電の実験を行っていました.(電極の間に気体 があると電気が流れないが,真空にすると放電が起きる.)その最中に、ガラス管から離れた場所にある机の上に置いておいた蛍光塗料(白金シアン化バリウム)を塗った紙が光っている事に気が付きました.
この光は真空放電中にのみ観察する事ができ、蛍光塗料を塗った紙を隣の部屋に持って行っても依然として光を放ちました.光らせる物質が空気中を飛んで隣の部屋まで行っているらしいと推測されました.試しに,蛍光板と電極との間に1000ページくらいの本を通しても白く光り,トランプで試してもやはり通り抜けました.スズ,木材, ゴム,アルミ板などで試しましたが,あらゆるものを通して光らせました.

レントゲンは,X線があらゆる物を通過する事にすぐに気が付きました.ある時,自分の手をX線にかざしてみると,そこに出来た影には自分の骨が映し出されていました.これが当時発見されていなかった電磁波の影響である事を見抜き、何かわからない光線という意味で数学で未知を意味する「X」を冠し、X線と呼びました.今では波長が1/100ミクロンの電磁波とわかっていますが,そのままX線と呼んでいます.

あまりにも鮮明に骨の様子を映し出す事が出来るため、1895年に彼が論文を発表するやいなやこの技術は欧米に瞬く間に広がり、アメリカでは体内に残留した弾丸の発見などに積極的に利用されました.

日本においても論文発表の翌年、1986年にはGSバッテリーで知られる島津源蔵(島津製作所創業者)によってX線の実験が成功し、写真撮影に成功しまし た.現在ではX線CTの世界市場シェアは日本のメーカーでほぼ独占され、日本国内では海外では考えられないほどX線CTが普及して疾病の早期診断に大きく 貢献しています.
論文発表当時,X線で女性の下着の下が見えると言う噂が立って,X線を防ぐ下着が売り出されたりしました.

発表当時,X線が危険であるとは数年間気づかず,研究者たちは電極と蛍光板の間に頭を入れたりしていましたが,白血病の患者がでてきて,ようやく危ないと気づきました.しかし,レントゲン博士は,講演などで実例を挙げてX線を浴びましたが81才まで生きました.

論文発表後16年して第1回ノーベル物理学賞受賞しました.このように非常に有用なX線を発見したにもかかわらずレントゲンは,多くの人に使ってもらおうと,特許をあえて申請しなかったために、晩年は第一次世界大戦で 敗戦したドイツ国内で非常に苦しい生活を送り、1923年、その生涯を困窮の中で閉じました.インフレの中で貧しい想いをして死んでいったそうです.特許を申請しなかったおかげで,X線の技術は瞬く間に世界中に広がり,いまでもレントゲンは医療の主役として使われています.


参考: ヴォイニッチの科学書 Byくりらじ
http://obio.c-studio.net/science/010.htm
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