月曜日, 12月 31, 2007

tPAによる血栓溶解療法の現状

先日札幌市内で行われた動脈硬化フォーラムで当院医師 笹森からtPA療法について講演したので,その内容について簡単に紹介させて頂きます.
今回はその前編です.
tPAによる血栓溶解療法の現状(前編)
高橋脳神経外科病院 笹森 由美子
tPAとは?rt PA=recombinant tissue-type plasminogen activator
一般名:alteplase(アルテプラーゼ)
商品名:「グルトパ」「アクチバシン」
2005年10月 保険適応となる. 「アルテプラーゼ静注療法適正治療指針」作成.                  (日本脳卒中学会)認可されてから2007年10月までの推定使用症例は8300例にのぼります.          
脳卒中治療ガイドライン 2004にtPAについて記載され,その使用を推奨されています.
推奨
tPAの静脈内投与は,経験を積んだ専門医師が適切な設備を有する施設で,適応基準を十分に満たす場合においては,脳梗塞急性期の治療法として有効性が期待される.                   (グレードA)
アルテプラーゼ静注療法に関するエビデンス発症3時間以内の虚血性脳血管障害に対するアルテプラーゼ静注療法により,3ヵ月後の転帰良好例は有意に増加する.                             (レベルⅠa)
tPA静注療法に関するエビデンスは国内外で以下のものがあります.
①米国の大規模臨床試験1995年 NIND study発症3時間以内の脳梗塞患者にtPA 0.9mg/kgを静脈内投与…3ヵ月後の転帰良好例 39%(プラセボ群 26%)頭蓋内出血 6.4%
②日本の臨床試験 2002年4月~2003年9月 J-ACT(Japan Alteplase clinical Trial)発症3時間以内の脳梗塞患者にtPA 0.6mg/kgを静脈内投与…3ヵ月後の転帰良好例 37%頭蓋内出血 5.8%
日本脳卒中医療向上・社会保険委員会はtPA静注療法の施設基準を下記のように提案しています.
・CTまたはMRI検査が24時間可能
・集中治療のため十分な人員と設備を有する
・脳外科的処置が迅速に行える体制が整備されている
・実施担当医が日本脳卒中学会の承認する実施講習会を受講している
tPA静注療法の適応は主に以下のものがあります.
・発症3時間以内に投与開始可能
・軽症例でない (軽度の麻痺,構音障害,失調,感覚障害のみ など)
・CTで早期虚血性変化が中大脳動脈領域の1/3未満
CTではEarly CT signsを読むことが重要です.
Early CT signs
・皮髄境界の不鮮明 
・脳溝の消失・低吸収域の出現  
・髄液腔の圧排
tPA療法を迅速・確実に行うためにその禁忌を頭に入れておき,的確に判断する必要があります.
禁忌には以下のようなものがあります.
既往歴   
頭蓋内出血既往
3ヶ月以内の脳梗塞(TIA除く)
3ヶ月以内の重症な頭部脊髄の外傷あるいは手術
21日以内の消化管あるいは尿路出血
14日以内の大手術あるいは頭部以外の重篤な外傷
治療薬の過敏症
臨床所見  
痙攣,くも膜下出血
出血の合併(頭蓋内,消化管,尿路,後腹膜出血,喀血)
頭蓋内腫瘍,脳動脈瘤,脳動静脈奇形,モヤモヤ病
収縮期圧 185mmHg以上 拡張期圧 110mmHg以上 
血液所見  
ワーファリン服用中でPT-INR 1.7以上      
ヘパリン投与中でAPTTが前値の1.5倍以上または正常以上      
重篤な肝障害 急性膵炎
画像所見  
CTで広汎な早期虚血性変化,CT/MRI上の中心構造偏位  
慎重投与というのもあります.治療を行う場合は医師が慎重に判断する必要があります.
慎重投与は以下のものがあります.
既往歴   
10日以内の生検・外傷      
10日以内の分娩・早流産      
3ヶ月以上経過した脳梗塞      
蛋白製剤のアレルギー
臨床所見  
75才以上      
NIHSSスコア 23以上,JCS 100以上      
消化管潰瘍,憩室炎,大腸炎      
活動性結核      
DM性出血性網膜症,出血性眼症      
血栓溶解薬・抗血栓薬投与中      
月経期間中      
重篤な腎障害      
コントロール不良なDM
感染性心内膜炎
治療の流れ・・・・等ついては後編に続きます.

土曜日, 12月 08, 2007

嚥下障害の検査 ( VF ) について

当院リハビリスタッフ ST(言語聴覚士)の志田より嚥下障害の検査・VFについて説明してもらいました.


「 嚥下障害の検査 ( VF ) について 」 ST 志田大輔
嚥下障害の症状として一般的に知られているのが、食事中の “むせ” です。しかし、むせの無い誤嚥が非常に多いのも事実です ( 不顕性誤嚥 ) 。嚥下造影検査(Videofluorgraptic examination:VF検査)は患者さんに造影検査食を嚥下してもらい、検査食の流れと貯留状態、嚥下関与器官の動きをX線透視画像として観察を行い、障害部位の判定し貯留・喉頭進入・誤嚥などの病態評価を行なう方法で嚥下障害を評価する方法の中でも重要な検査法の1つです。
VF の目的・特徴は、診断的 VF治療的 VF の 2つに大きく分けられます。診断的 VF とは、誤嚥の有無・むせの有無や程度、原因を評価します。治療的 VF は、誤嚥や咽頭残留 ( のどに食べ物が飲み込んだ後にも残ること ) がある場合、姿勢 ( ※当院では検査は90°位のみしか行なえないが、VFの結果等から造影後に食事時の姿勢調整は可能です)や食物形態や一口量を変え、様々な嚥下法や手技を組み合せて、造影中に効果を検討します。異常の検査で得られた情報を基に、その後のリハビリテーションや実際の食事内容や姿勢・介助法などに生かしていくのです。


【VFで診れる嚥下の流れ】


本検査の問題点

VF検査は嚥下機能検査法の中でも信頼性の高い方法ですが、X線被曝の観点から長時間の撮影や繰り返しの評価を行うことは困難です。
本検査を行う為に、検査者は解剖学的構造と嚥下障害の機序に関する知識のほか、代償方法や嚥下機能賦活法の知識と排出のための技術が必要です。
また患者様にとっては検査室という特殊な環境や体位の不自由さ、あるいは緊張のため普段とは異なる嚥下を行う患者様もいます。
そのためVF法で得られた評価結果が患者様の嚥下機能のすべてであると過信せずに、他の嚥下機能検査法を組み合わせて総合的に評価を行う事が大切になります。